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《2002年1月号No.198特集》

特集メディアリテラシーの定番授業を創る!〜ニュースTV編〜

「体験!メディアのABC」を授業する

佐藤正寿 岩手・宮古市立高浜小学校

1 「体験!メディアのABC」とは

「今日は、『体験!メディアのABC』を見ます。」「イエーィ!」
 食い入るようにして視聴し始める子供たち。今年度の我がクラス(五年生)では、おなじみの風景である。
 「体験!メディアのABC」は、小学校五・六年向けのメディアリテラシー教育番組である。
 「アップとルーズ」「キャッチコピー」「ビデオの撮影」など年間二十本で構成されている。 
 目指すところは、子どもたちの「メディアを読み解く力」の育成である。
  毎週月曜日十時〜十時十五分、毎週木曜日十一時十五分〜十一時三十分に四回ずつのリピート放送がされている。番組ホームページは次の通りである。 
http://www.nhk.or.jp/abc/
  また、すでに何度か本誌でも、この番組をもとにした実践が紹介されている。
(7月号「作作ろう!合成写真を」拙稿、8月号「糸井登氏の授業 アップとルーズ」藤川大祐氏等)
 さて、この番組は次の点で画期的である。
 一つの番組でテーマの内容のフルコースが提示されている

 番組は、「テーマについての興味づけ」「体験コーナー」「メディアのプロの
コーナー」などから構成されている。
 これまでメディアリテラシー教育を実践する時には、「いい教材が見つからな
い」「プロの話が聞くことがなかなかできない」といった困難点があった。
 ところが、この「体験!メディアのABC」を活用することによって、それらの困難点がかなり改善されるのである。
 「キャッチコピー」の回を例にとる。
 この回の体験コーナーでは、りんごについて実際にキャッチコピーを作っている。その方法も、「思いついたことを付箋紙に書く」→「並び替えて考える」といったように、すぐに追試できる形で示されている。さらに、「言葉は短く」「ターゲットを誰にするか」といったポイントも示される。
 続いて「メディアのプロ」の登場である。ここでは実際のコピーライターが一つのCMのキャッチコピーを作るまでの経緯が紹介される。このようなプロの話は、当然のことながら教室では気軽に聞くことはできない。
 このようにわずか十五分の番組であるが、その中に、「興味づけ・素材の提示・方法の提示・ポイントの提示・プロの話」が盛り込まれている。つまり、一単元数時間のフルコースの学習内容が入っているのである。しかも、子供たちが引き付けられる仕掛けが随所にある。
 私は、それらの要素に加えて、単元の終わりに「メディアリテラシーを深める発問」を子供たちに投げかけている。これによって、子供たちは自分の学びを振り返ることができる。

2 授業プロジェクトチーム

 このような番組を授業でどのように活用をするか。そのためのプロジェクトチームがある。
「NHKスタッフ」「大学研究者」「小学校教師」という異分野から集まったチームである。
 大学の研究者として、本誌でおなじみの千葉大学・藤川大祐氏が番組企画委員として、直接番組づくりに関わっている。このチームでの中心的な存在である。また、小学校教師は八名おり、「八校プロジェクト」を組織している。
 このプロジェクトチームの授業づくりには、大きな特色がいくつかある。

(1) メーリングリスト(ML)による意見交流で授業が深まる

 番組が放送される。
 八校プロジェクトのメンバーは割り当てられた回の授業プランを作成する。そ
れをMLに流す。
 そのプランに意見が出される。その意見をもとに授業者が修正プランを考え、
実践をする。
 これが授業実践までの一連の流れである。
 このMLの存在は実にありがたいものである。
 授業者は独力でプランを立てる。しかし、先行実践がほとんどないので、誰か
の意見がほしい。そんな時の頼りが、プロジェクトメンバーである。
 私の担当である「合成写真」の授業プランをMLに流した。すぐに藤川氏から
メールが送られてきた。
 私としては、「テレビ局は合成写真をど のように使っていったらよいのか」を、自分たちが合成写真を作った体験を踏まえて、子どもたちに少し議論してもらえるとよいなと思います。現実のテレビ局がどうあるべきかということは、常に子どもたちに考えてほしいことです。

 このアドバイスにより、授業終末の部分の発問を変えた。そして、より深まり
のある授業となった。
 家に居ながらにして、授業プランを研究者や他の実践者に見ていただける。MLならではである。
 むろん、MLでは授業プランの検討だけではない。番組の情報、メンバーへの連絡、番組の在り方についての意見等、まさに様々な情報交換が行われている。
MLのメールを見るたびに、「プロジェクトチームはいつも動いている」という思いを強くする。

(2) 一つ一つの授業が、メディアリテラシー教育の新たなる実践蓄積の場となる

 小学校教師の八人の実践は、各自の個性がよく出ている。そして、その個性が新たなるメディアリテラシー教育を創っている。
 二つの具体例を挙げよう。

【例1】アップとルーズ(第二回)
 京都の糸井登氏は林間学習で、「友だち再発見」というテーマで、アップとル
ーズを意識して写真撮影をするように子供たちに投げかけた。子供たちは、いろ
いろな活動場面で歓声をあげながら楽しく撮影をした。
 その発表会では、ふだん見られなかった友だちの様子を知ることができ、意義
あるものとなった。
 この実践でユニークなのは次の点である。
番組と実践内容の絶妙な組み合わせ

 「アップとルーズ」のターゲットを何にするか。子供たちが、「ぜひアップで
撮りたい」と思うものが必要である。糸井氏は「林間学習での友だち」を対象に
選んだ。確かに林間学習という特別な場では、友だちの表情も違う場合が多い。
「アップの写真は表情がよくわかる」ということを子供たちは、体験的に理解を
する。
 この実践は、番組を活用したメディアリテラシー教育で、幅広い内容が可能な
ことを物語っている。

【例2】キャッチコピー(第六回)
 大阪の重松昭生氏は、子供たちに番組を見せる前に仕掛けをしていた。「CM視聴をする」「課題であるキャッチコピーの試し作りをする」ということである。しかし、なかなかうまくいかない。その時に番組を見ることによって視点が深まり、子供たちは壁を乗り越えた。さらに単元終了後も、キャッチコピーへの自主的な追究が続いた。
 単元の中間段階で、この番組をキーポイ ントとして効果的に活用することができる。

 重松氏の実践で見えてくるのは、この点であろう。単元の最初の段階で番組を視聴させ体験させるパターンもよし、子供たちのメディアリテラシーの視点が深まった段階で視聴するのもよしである。授業者の意図によって活用自在である。
 これら二つの例の他にも、「小学校を紹介する新聞の発行」「アニメーション作り」「修学旅行でのインタビューの事前学習」等、様々な実践がプロジェクトチームで報告されている。これらがメディアリテラシー教育の裾野を広げていることは間違いない。

(3) 番組ホームページで活用度二倍に

 冒頭で紹介をしたように、番組にはホームページがある。そこには、先に紹介した二つの実践例をはじめ、チームメンバーの実践が、各回一人ずつ掲載されている。写真付きでの紹介なので、その様子が具体的にわかる。また、実際にメンバーが作った新聞やアニメーションも見ることができる。
 さらに、それだけではない。ホームページには番組の紹介コーナーの他に、次の大きな目玉がある。
・授業づくりのヒント
・ふろく・使える教材

 「授業づくりのヒント」では、藤川大祐氏が一つ一つの実践の意味付けを論じている。そこには、メディアリテラシー教育の重要な視点が提示されている。
 また、「ふろく・使える教材」では、番組に関わる資料が入手できる。たとえば、組写真であれば、実際にそのサンプルが掲載されているといった具合である。
 番組紹介あり、実践例あり、理論あり、そして教材ありと、まさに充実したホームページである。これを活用しない手はない。

3 総合的に活用する

 二学期に「宮古の自慢CMを作ろう」という総合的な学習を行った。子供たちは次のように、いろいろな活動を行った。
・街角インタビューをして宮古自慢を知る
・ターゲットを決め、キャッチコピーを作る
・取材をする
・ビデオ撮影の練習をする
・音声や照明を考えて撮影をする……等
 これらの内容の多く(例・「インタビュー」「取材」「キャッチコピー」「音声」等)は、「体験!メディアのABC」で放送されたものであり、子供たちはすでに視聴をしていた。だから、ある程度、それらの技能についての方法やこつを子供たちはイメージ化できていた。 
 その点で、この単元での実践は非常にダイナミックなもの、深まりのあるものとなった。
 このように、継続して視聴している場合には、総合的な活用も可能である。
 なお三学期の「体験!メディアのABC」は、「手紙・電話・Eメール」「ボディランゲージ」「演出」「構成」「メディア」と、一・二学期とはまた異なる視点からの内容になっている。
 私は、今から視聴するのも、実践をするのも楽しみである。